この記事では、中学国語の授業で勉強する「私を束ねないで」(新川和江の詩)について解説します。
指導案を考えている先生や、テスト対策の準備をしている生徒の皆さんはぜひ参考にしてみて下さい。
詩を題材にした授業では作者の思いを読み取りながら、詩の独特の表現技法を読み取ることがポイントになります。
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私を束ねないで:作者がこの詩にこめた思い
「私を束ねないで」は詩の表現技法として「繰り返し」が多用されているのが特徴的ですね。
この作品に作者がこめた思いを理解するために、まずはこの詩に見られる繰り返しのパターンを図式化してみましょう。
- わたしをAしないで
- Bのように
- Cのように
- Aしないでください わたしはD
最初の3連は上のようなパターン、最後の2連は、「Bのように Cのように」の部分が変則的になり、2回目の「Aしないでください」に当たる部分ではAが言い換えられています。
「Aしないでください」の「A」の共通点を理解する
ここで、Aの共通点は何でしょうか。
「束ねる」「止める」「注ぐ」「名付ける」「坐りきりにさせる」「区切る」「けりをつける」
これらに共通するイメージは、「限定する、固定する」でしょう。
いわば、動きや変化、個性が奪われた状態ですね。
動きや変化を「自由」ととらえれば、詩のタイトルは、「私の自由や個性を奪わないで」という作者のメッセージを込めたものと考えることができます。
これが、詩に込められた作者の思いととらえていいでしょう。
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私を束ねないで【中学国語】指導案作成のポイント
「私を束ねないで」の指導案を作成する際には、次のようなポイントを押さえてください。
- ①詩にこめられた作者のメッセージをつかむ
- ②詩のリズムや技法に触れる
以下、順番にくわしく説明します。
①詩にこめられた作者のメッセージをつかむ
もう一度、詩のパターンを押さえてみましょう。
- わたしをAしないで
- Bのように
- Cのように
- Aしないでください わたしはD
Aの共通点は動きや変化、個性が奪われた状態であることはすでに述べました。
それと対比されるように、B、Cの部分には動きや変化、個性のないもの、つまりすでに生命を失ったものや、固定化されたありきたりなものが入ってきます。
「わたしはD」のDの部分に入ってくるのは、当然、動きや変化のあるものです。
「稲穂、羽撃き、海、風、終わりのない文章」は、それぞれ「束ねる、止める、注ぐ、坐りきりにさせる、けりをつける」と対応しています。
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「稲穂」も「動きあるもの」?
「稲穂」が動きのあるものというのはピンと来ないかもしれません。
しかし、第1連の最後の2行を見てみると、作者は、大地一杯に実った稲穂が風にそよいで波のように動いている様子をイメージしていることが分かります。
ちなみに、それぞれの連の最後の2行(Dの説明部分)には、「見渡すかぎり、こやみなく、とほうもなく、はてしなく」など、無限を感じさせる言葉が使われています。
Aの限定的なイメージの言葉と対極的ですね。
なかには、第4連を難しく感じる人もいるかもしれません。
生徒の立場で、例えば「○○さんはいい子」と名付けられてしまうことを考えてみましょう。
「○○な子」と名付けられた時点でその名前に私たちは縛られ、名付けによって個性が奪われてしまいます。
作者はそれを嫌っているのです。
②詩のリズムや技法に触れる
この題材では、詩ならではの表現やリズム、技法に関する問題を問うことが可能です。
一年間の国語の授業で、詩を題材にするのは、一、二回だけですから、貴重な機会といえますね。
その貴重な機会に合わせた問題が予想できるので、テスト出題の準備をしておきましょう。
テスト出題の例については、後で具体例を紹介していますので参考にしてください。
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私を束ねないで:詩の表現技法についての解説
「私を束ねないで」で使用されている詩の表現技法について解説します。
この題材では、具体的には次の3つの詩の表現技法が多用されています。
- 詩の表現技法①:反復法
- 詩の表現技法②:比喩
- 詩の表現技法③:体言止め
以下で順番に説明していきます。
詩の表現技法①:反復法
すでに何度か確認していますが、この詩では「同じパターン」が繰り返され、詩全体のリズムを作る役割を果たしています。
具体的には、各連の書き出しの「わたしを~~ないで」など、同じ形が繰り返されていますね。
また、各連の2行目、3行目は、「~~のように」という形を2回繰り返してリズムを作っています。
ちなみに、第3連までまったく同じように繰り返されてきたパターンが最後の2連で変則的になることで、さらに読み手の印象に残る効果を生み出しています。
反復法には、強調したい部分で変則的なパターンを組み合わせることで、その変則的な部分を際立たせるという効果もあるのです。
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詩の表現技法②:比喩
「~のように」という例えが使われています。
「~のように」など、例えであることを明示する言葉と一緒に使われる比喩を、「直喩」といいます。
作者が嫌う、「束ねる」などの対象となるものには、基本的にこの直喩が使われていますね。
「直喩」に対する「隠喩」とは
それに対して、「~のように」などの語を使わない比喩を、「隠喩」といいます。
作者が「わたしは~」と述べる部分には、この隠喩が使われています。
「~のように」といった言葉を使わずに言い切る形になるので、非常に強い印象を与えます。
他にも、「大地が胸を焦がす」の部分には、大地を人間のように例える「擬人法」が使われています。
詩の表現技法③:体言止め
ものの名前(名詞)で終わらせることを体言止めといいます。
「稲穂です」と言わずに、稲穂とだけ言うことで、声に出した時に余韻が生まれます。
稲穂の他にも、「わたしは~~」の部分では、上で説明した隠喩+体言止めを使っています。
この詩では、隠喩+体言止めという言い切りの形から、作者の強い気持ちを感じ取ることができます。
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私を束ねないで:テスト問題例と解説
「私を束ねないで」については、次のようなテスト問題の出題が考えられます。
- ①情景の想像についてのテスト問題
- ②体言止めについてのテスト問題
- ③言葉の選択についてのテスト問題
- ④テーマの理解についてのテスト問題
- ⑤オリジナルの詩についてのテスト問題
以下、順番に解答例と解説をしていきますので、参考にしてみてください。
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①情景の想像についてのテスト問題
解答例
情景が広くなる
「束ねる」という言葉の次に「稲穂」と来たら、読者はまず手につかめるくらいの稲穂を想像すると思います。
しかし、その次に「大地」「見渡す限り」と、情景は一気に広がりを見せます。
その情景の広がりによって、読者は作者の願うダイナミックな世界へと誘われていくのです。
②体言止めについてのテスト問題
解答例
体言止め
表現技法を覚えているかを確かめる問題は、先生からすれば作りやすいです。
この詩には様々な表現技法が散りばめてあるので、生徒はどの部分が聞かれても答えられるようにしましょう。
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③言葉の選択についてのテスト問題
- ア:影
- イ:絵の具
- ウ:雲
- エ:牛乳
解答例
エ:牛乳
「注ぐ」に対応する部分なので、〇〇に入るものは液体ということになります。
同じ連にある「酒」「海」と対比させても、液体が入ることは分かります。
この問題を通して、作者がどのように言葉を選んでいるかを考えてみましょう。
④テーマの理解についてのテスト問題
解答例
誰かに何かを決められるのではなく、自由でありたいから。
作者がこの詩で伝えたいことを一言で言うなら、「自由でありたい」ということです。
「自由」というキーワードは必ず入れましょう。
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⑤オリジナルの詩についてのテスト問題
「〇〇のように」
「〇〇しないでください」
という構成のオリジナルの詩を作りなさい。
解答例
わたしをしまわないで
ぎゅうぎゅうに教科書のつまったカバンのように
きちょうめんにペンのならんだ筆箱のように
わたしをしまわないで
詩は言葉の芸術ですから、言葉についてのセンスを日頃からどれくらい磨いているかがポイントになります。
素晴らしい詩を味わうだけで授業を終わってしまうのはもったいないことですね。
一番いいのは、簡単な詩を自分で作ってみることですが、いきなり自分で詩を書くことは簡単ではありません。
自分で作ってみるからこそ、言葉選びの大変さに気づき、プロに詩人のすごさを知ることで詩の味わいが深まります。
ここでは「私を束ねないで」の形式を使った詩を作る練習なので、「限定的、固定的」なイメージの言葉とその具体例を思いつけるかどうかが鍵となります。
各自で考えてみた後で、グループで意見を出し合うと、より新しい発見につながることでしょう。
まとめ
今回は、中学国語で勉強する「私を束ねないで」の指導案について解説しました。
詩を題材にしたテーマで勉強する機会はなかなかありませんから、貴重な機会といえるでしょう。
一方で、先生の側も詩については教えるのが苦手…という方も多いかもしれません。
本文で紹介した詩の表現技法の解説などを通して、生徒たちが詩を身近に感じたり、自分で作ってみようという気持ちになったりできるように指導方法を工夫してみてくださいね。
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