「日の名残り」は、1989年にイギリスで刊行された、カズオ・イシグロの小説です。

カズオ・イシグロは日系イギリス人という事もあり、2017年にノーベル文学賞を受賞した際には、日本でも大きな話題となりましたね。

「日の名残り」は、1993年にジェームズ・アイヴォリー監督により映画化されていますので、ご覧になった方も多いかと思います。

ここでは「映画は見たけど、小説は長くて読む気になれない…」といった方のために、小説のあらすじとみどころを簡単に紹介します。

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「日の名残り」のあらすじを簡単に紹介!

「日の名残り」あらすじ

イギリスの由緒あるお屋敷「ダーリントン・ホール」の執事スティーブンスは、屋敷が新しい主人ファラディの手に渡って以来、深刻な人手不足に悩んでいました。

そんな時、スティーブンスはファラディから数日間の休暇を勧められます。

ファラディの立派なフォードを借りられる上にガソリン代も主人持ち、と言うこの話を、スティーブンスはとても真に受ける事ができません。

しかし、ある日スティーブンスの気が変わります。

それは、以前ダーリントン・ホールで女中頭をしていたミス・ケントンから届いた手紙がきっかけでした。

スティーブンスはミス・ケントンの手紙から、ダーリントン・ホールを懐かしむ気持ちを感じ取ります。

これは、まさに渡りに船、ミス・ケントンを呼び戻し、人手不足解消を図る計画を思い立ったスティーブンス。

無事にガソリン代主人持ちの約束を取り付けると、一路、ミス・ケントンの住む西部の町へとフォードを走らせます。

長年仕えたダーリントンホールを初めて離れたこの旅で、スティーブンスは長い執事人生を振り返り始めるのでした。

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「日の名残り」の主な登場人物

「日の名残り」の主な登場人物

  • ミスター・スティーブンス:ダーリントン・ホールの執事
  • ミス・ケントン(ミセス・ベン):ダーリントン・ホールの元女中頭
  • ダーリントン卿:ダーリントン・ホールの前主人
  • ファラディ:ダーリントン・ホールの現主人でアメリカ人

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「日の名残り」小説と映画の違い(ネタバレあり)

映画「日の名残り」は、1993年のジェームズ・アイヴォリー監督作品です。

アイヴォリー監督と言えば「眺めのいい部屋」「ハワーズ・エンド」など、英国を舞台にした格調高い作品で知られていますね。

映画「日の名残り」は、小説とは設定が少し違っています。

ここでは、その違いについて、わかりやすく箇条書きで説明します。

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小説と映画の違い①:登場人物が違う

小説:ダーリントン・ホールの新しい主人は「ファラディ」(以前のダーリントン・ホールとは無関係)映画:ダーリントン・ホールの新しい主人は「ルイス」(以前のダーリントン・ホールを訪れた事のあるアメリカ上院議員)

小説と映画の違い②:冒頭の違い

小説:ダーリントン・ホールでファラディがスティーブンスに旅行を提案するシーン。

映画:ルイスがオークションで絵画を落札するシーン。

小説と映画の違い③:車が違う

小説:アメリカ車の「フォード」映画:ドイツ車の「ダイムラー」

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小説と映画の違い④:ラストが違う

小説:桟橋が見えるベンチに座っているスティーブンスと見知らぬ男との会話。映画:ダーリントン・ホールに戻ったスティーブンスの姿。(また、桟橋でのシーンはミス・ケントンとの会話になっています)

以上が、小説と映画の大まかな違いです。

ストーリー自体が大きく変えられているわけではありませんが、ユーモラスな雰囲気の小説と比べて、映画は真面目な雰囲気がします。

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「日の名残り」見どころ(ネタバレあり)

「日の名残り」は、旅をしながらスティーブンスが自らの執事人生を語る回想録です。

旅の道中、スティーブンスは「執事としての自分のあり方は正しかったのか」と無意識のうちに葛藤します。

この物語のみどころと言えるスティーブンスの心の葛藤を、詳しいあらすじとともに追って行きましょう。

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旅の始まり

1956年、ダーリントン・ホール。

冒頭のシーンでは、ダーリントン・ホールの現主人ファラディと、以前からダーリントン・ホールに執事として仕えるスティーブンスとの関係性が描かれています。

とにかく真面目な性格のスティーブンスは、ファラディが何気なく飛ばすアメリカンジョークにどう返答していいものかと戸惑い悩みます。

しかし、主人をジョークで楽しませるのも執事としての立派な職務と考え、真剣にジョークの特訓を始めるスティーブンス。

しかし、試しにスティーブンスが飛ばしてみたジョークは、ファラディには全く伝わりません。

そんな「ジョーク問題」を抱えたまま、スティーブンスはミス・ケントンに会うための旅に出発するのでした。

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一日目

旅の初日、スティーブンスは同じく執事だった自分の父の思い出とともに「偉大な執事とは」について考えます。

そして、ただの有能な執事と偉大な執事との違い、それは「品格」の有無であるという結論に達します。

スティーブンスにとって、職務に個人的な感情を絶対に持ち込まないことが「品格」であり、それでこそ「偉大な執事」なのです。

二日目

この日の朝、スティーブンスはミス・ケントンの手紙を読み返しながら、彼女と初めて会った頃の事を思い出します。

女中頭のミス・ケントンと、副執事のスティーブンスの父は、同時にダーリントン・ホールへやって来ました。

プライドの高いミス・ケントンとスティーブンスはしばしば対立します。

特にスティーブンスの父の老いを指摘するミス・ケントンに辟易とするスティーブンス。

しかし、ダーリントン・ホールで近く開催される国際会議を前に、ミス・ケントンの指摘が正しかった事に気づかされる事件が起こります。

国際会議での事件

ダーリントン・ホールで行われる国際会議は、非公式とは言え欧米の要人が集まる重要なものでした。

執事のスティーブンスにとっては、絶対に失敗が許されない大舞台です。

スティーブンスの父は、以前の事件以来、重要な役目から外されていましたが、この会議の最中に、とうとう倒れてしまいます。

急いで父の部屋へと駆けつけたスティーブンスですが、その後、再び職務へと戻ります。

スティーブンスが再び父の部屋に戻った時、父は既に亡くなっていました。

しかし、その時のスティーブンスの気持ちを最も理解してくれていたのは、対立する事の多かったミス・ケントンだったのです。

スティーブンスはこの時の思い出を「悲しいけれど、自分を偉大な執事へと近づけてくれた誇らしい思い出」として振り返るのでした。

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三日目

この日、スティーブンスは過去に自分の身の回りで起こった様々な変化について思い返します。

まずは主人のダーリントン卿の変化です。

ダーリントン卿は、高徳の紳士でした。

しかし、国際会議以降、ダーリントン・ホールを訪れる顔ぶれに変化が現れます。

当時、反ユダヤ主義者と呼ばれた人々が、出入りするようになったのです。

ある日、スティーブンスはダーリントン卿から屋敷で働くユダヤ人を解雇するよう命じられます。

その命令にショックを受けたスティーブンスでしたが、品格ある執事として主人の命令は遂行せねばならぬと、二人の女中を解雇するのでした。

ミス・ケントンとの関係の変化

もう一つは、ミス・ケントンとの関係の変化です。

スティーブンスとミス・ケントンは、執事と女中頭として良好な信頼関係を築いていました。

しかし、ある日、一人で読書中のスティーブンスの部屋へミス・ケントンが現れ、本の内容について言い争いになります。

さらに、ミス・ケントンが仕事中、心ここにあらずという状態が見受けられるようになります。

ミス・ケントンには恋人ができ、二人は以前と同じような信頼関係を保てなくなったのでした。

二人の変化について思い出していたこの日の夜、スティーブンスは宿で村の人々と夕食を共にします。

立派な出で立ちのスティーブンスを、身分の高い紳士と勘違いする村人たち。

彼らに請われるまま、ダーリントン卿時代に出会った政府の要人たちの話をしたスティーブンスでしたが、最後まで、自分がダーリントン卿の執事であったことを黙っていました。

「ダーリントン卿は正しい」と信じ続けてきたスティーブンスですが、心の奥底では卿の過ちに気づいていたのです。

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四日目

ようやくミス・ケントンの住む町に到着したスティーブンス。

ホテルの食堂に座り、ふとミス・ケントンが扉の向こうで泣いていた日の事を思い出します。

その日、ミス・ケントンは結婚を申し込まれていました。

ミス・ケントンは、その事をスティーブンスに告げ「今夜、本当に出かけてもいいのか?」と尋ねます。

スティーブンスは訳がわからずこう答えます。

「楽しく過ごされますように」

突然現れるレジナルド

同じ夜、ダーリントン・ホールに卿が昔から可愛がっているレジナルドが突然現れます。

その日、ダーリントン・ホールではイギリス首相とドイツの会合が行われていました。

ダーリントン卿を敬愛するレジナルドは、同じく卿を大事に思っているスティーブンスに「卿が間違いを犯そうとしているのに、黙って見ているのか?」と迫ります。

スティーブンスはこう答えます。

「私には理解できかねます。」

スティーブンスは執事の品格を貫き通すことで、大切な人を二人失う事になりましたが、当時のスティーブンスはそれに気づいていませんでした。

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六日目

スティーブンスはついにミス・ケントンと再会を果たします。

しばらく昔話に花を咲かせる二人。

スティーブンスが手紙から感じていた、ミス・ケントンがダーリントン・ホールに戻りたがっているという気持ちは、全くの勘違いでしかありませんでした。

そして、ここで初めて、スティーブンスは当時ミス・ケントンが自分を愛していた事に気づくのです。

その時、スティーブンスは人間らしい心の痛みを感じるのでした。

旅の終わり

ミス・ケントンと別れて数日後、夕暮れの海辺のベンチに座り、桟橋を眺めるスティーブンス。

偶然隣合わせた男に、ダーリントン卿への敬愛の念を語ります。

男はこう言います。

「後ろばっかり向いてるから気が滅入るんだ」

その時、あかりのついた桟橋で、楽しそうに会話する人々に目が留まるスティーブンス。

そして、彼らの間に「ジョーク」が飛び交っている事に気づきます。

そうだ、ファラディ様がお戻りになるまでに、もっとジョークの研究をして楽しませてさしあげなければ。

スティーブンスの旅は終わり、新しい職務を遂行するため、ダーリントン・ホールへの帰路へと向かうのでした。

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まとめ

今回は、カズオ・イシグロの「日の名残り」について解説しました。

いかがでしょう、長くなりましたが、それほど「日の名残り」は魅力的な作品です。

「日の名残り」というタイトルから、悲しいストーリーを連想する方も多いかもしれませんが、実際は、執事のスティーブンスが過去から解き放たれ、明るい未来へと向かって行く、希望に満ちた物語です。

また、真面目すぎるスティーブンスの姿は滑稽でもあり、ジョークが滑りまくるシーンはとても面白いです。

映画を見た方はもちろん、見ていない方も、ぜひ「日の名残り」を読んでみてくださいね!

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